眠いのだけれど眠れない。

そんなちょっと嫌(いや)な状態のまま、昔の記憶をたどっている。

 

いま思い出しているのは、前回も書いたホテルのボーイ時代のこと。

そのアルバイトをはじめて2、3週間経ったくらいの時だったかな、

その日は夜勤で早朝5時前、ロビーにいるのはわたし一人。

夜勤のときボーイは交代で仮眠をとることになっていたので、わたしはまだ寝起きという感じで、背中を壁につけてうつらうつらしていた。

 

すると、正面のエレベーターがスーッと開いて、小柄(こがら)な老人というか、おじいちゃんという感じの人が出てきた。

 

「こんな朝早くにどうしたんだろう。老人だから朝早く目が覚めてしまってうろうろしているのかな。」

と思っていると、そのおじいちゃん、しばらくロビーを見渡していたが、わたしに気づくと、まっすぐこちらに歩いてきた。

田舎のおじいちゃん風だが、姿勢がよくて足取りもしっかりしている。

 

そしてその老人、わたしの正面に来ると、いきなり、

「こらっ!」

 

大きな声で一喝。

 

「な、なんだ、心当たりないよー。」

と思いながらも居住まいを正して「はッ」という感じになると、その老人。

「なにをダラダラしてるッ。」

 

あ、見苦しい、ということかな、とかしこまったが、老人は緩(ゆる)めず、スゴイ剣幕でしばらく叱り続けた。

「ひでーじいさんにつかまてしまったな」と思ったが、悪意とか嫌味な感じは全くなかったので、直立不動で叱られていたのだが、その様子がおかしかったのか、老人は「は?」という感じで一瞬口を閉じると笑顔になった。

 

そのあとは柔らかな表情になったのだけれど、説教はしばらく続いた。

 

最後は、親し気に、

「いいか、元気だ。元気がないと社会で生きていけんぞ。元気を出せ。」

というと、またすたすたと歩いてエレベーターのところに戻り、そのまま上階に上がっていった。

 

「あれ?あんなじいさん泊まっていたかなあ?それにしても変わったじいさんだったなァ。」

と思ったが叱り方がからっとしていたので、それが尾を引くことはなかった。

 

その日のお客さんのチェックアウトが一段落して、夜勤と昼勤の引継ぎをしていると、その老人がこちらのほうに来た。

支配人がその後をついて歩いている。

 

老人はわたしたちの横を通るとき、ニヤッと笑って、

「元気でやってるか。」

先輩のボーイたちが頭を下げた。

 

その老人がホテルのМ社長だと、先輩が教えてくれた。

 

М社長はそのホテル以外にもいくつかのホテルやレジャー施設などを経営しているので、ここにはあまり来ない、ということだった。

 

「はァ、それで。納得。」

 

しかし、あまり圧迫感とかは感じなかった。

 

フロントや事務所の社員の人たちの話だと、とても厳しい人だということだったので、ちょっと拍子抜けがしたくらいだった。

 

ただ、ボーイやアルバイトなど、今でいう非正規労働者を叱るようなことはなく(わたしは叱られたが・・・)、社長の前でピリピリしている社員さんや支配人などの幹部とは違って、アルバイトたちはわりとリラックスしていたようだった。

 

今から思うと、下に厚い人だったのだろう。

わたしもM社長にはいいおじいちゃんという印象しか残っていない。

 

旅役者の子役から身を起こしたというだけあって(これは最近ネットで知った)、下層の人たちの苦しさを知る人だったのだろう。

 

ということで、そのアルバイトはおいしかったー。(笑)

 

時間給はふつうの金額だったのだが、ナント、そのホテルはチップオーケーだったのだ。

このチップが時間給でもらう給料よりも2倍、3倍、ときにはそれ以上の金額になった。

 

 

・・・あ、眠くなった、この続きはまた明日書こう。zzZZ

 

 

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それでも厳しいことはキビシイ社長だったんだろうなァ。

ネットを検索していると、横浜の某レジャー施設の事務所に掲げられていたというM社長自筆の「社訓」の写真があった。

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そのホテルの事務所にも同じような額が掲げられていたが、文面は少し違っていたようだ。

 

たしか、「鉄の信念、鉄の意志」という言葉があって、「うへっ」とちょっと引いた記憶がある。

(ダメ人間だからね、わたしは。

豆腐の信念、豆腐の意志 ・・・・とまでは言わないけれど。(笑))